いっそのこと日本国内にロングステイするのはいかがですか?

ロングステイと言えば海外を指すことが多い現状ですが、国内でのロングステイはどうでしょうか。海外ロングステイでは必ず課題となる、言葉や治安の問題、緊急時の医療体制など、国内であれば心配いりませんし、国内にも素晴らしい自然や景観を持つ観光地はたくさんあります。
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ロングステイと言えば海外を指すことが多い現状ですが、国内でのロングステイはどうでしょうか。海外ロングステイでは必ず課題となる、言葉や治安の問題、緊急時の医療体制など、国内であれば心配いりませんし、国内にも素晴らしい自然や景観を持つ観光地はたくさんあります。また、長引くデフレ経済のおかげ?で、日本は世界的にも物価の安い国になりました。


年間2000万人もの外国人が爆買い訪れる日本において、なぜ国内でのロングステイは普及していないのか?日本人がもっと自分の国を楽しめるようにするには、どうしたらいいのか、現状を踏まえながら考えてみたいと思います。

 

日本へ訪れる外国人の現状

2015年、日本を訪れた外国人観光客は1974万人、2016年は10月の時点ですでに2000万人を突破しています。2012年ごろから続く円安基調により中国人を中心に観光客が急増、主に東京、大阪、京都など都市部の観光地を巡りつつ、爆買いをするツアー客が目立ちました。

 

中国経済の失速や、11月の米大統領選を機に円高へと転じたため、これから訪日客の減少が懸念されますが、こうした要因だけでなく、すでに爆買いも一段落したのか、訪日観光客の数にも目的にも変化が現れています。

 

2015年の訪日観光客は、中国がトップで約500万人、韓国が2位400万人、以下、台湾、香港、アメリカ、タイ、オーストラリア、シンガポール、マレーシア、フィリピンと、トップ10カ国で1700万人を数えています。

 

ほとんどがアジアの国々からの訪日客ですが、爆買いが一段落した今、彼らの目的は買い物目的の都市型ツアーから、体験型カスタマイズツアーへと変化しているといいます。特に、最も多い東南アジアからの旅行者に高い支持を集めているのが北海道です。

 

2015年、訪日観光客の宿泊地は東京、大阪こそトップ2ですが、3位に北海道、4位に京都、5位に沖縄県がランクされています。南国の島国が多い東南アジアの人たちにとって、北海道の雪と大平原はとても魅力的な体験であり、また、日本の文化に興味を持つ外国人も多く、京都への観光客も北海道を肩を並べます。

 

6位に千葉県が入っているのはディズニーリゾートがあるからでしょう。こうした訪日客に共通するのは、リピーターが多く、日本に来る楽しみは買い物ではなく、日本各地の郷土料理や生活体験だといわれています。

 

東京オリンピックが開催される2020年には訪日観光客4000万人を目指す日本政府は、G7を三重県の伊勢志摩で開催、伊勢神宮をはじめとする日本の文化遺産と美しい自然を海外にアピールしました。また、政府が地方自治体と共同で進めるホストタウン構想は、オリンピック参加国の自治体と姉妹都市になり、自国を応援に来る訪日客のための宿泊施設を建設したり、競技イベントを開催するなどして五輪を盛り上げようというものです。

 

政府は自治体に対して、特別交付税や地域活性化予算などを割当てますが、こうした「おもてなし」のホスピタリティをアピールすることで、訪日客のリピーター化を図り、多くの観光客を定着させてたいというのが本音でしょう。すでに、100を超える自治体が参加国との間でホストタウン登録を済ませています。

 

もともと、欧米などの海外ではロングバケーションが一般的で、国内にこうした長期滞在のニーズを賄う施設が整備されています。対する日本では昔から、「盆暮れ正月」しか長期の休みはなく、しかも最大で1週間程度でした。また、戦後派経済成長にまい進し、早朝から深夜まで休み返上で働く企業戦士が称賛されたものです。

 

こうした日本人気質も影響し、これまで長期滞在型余暇であるロングステイは根付いてきませんでした。しかし、買い物から体験型へと変化する外国人観光客の旅行スタイル、東京オリンピックを控えて長期滞在に備え始めた自治体が、国内のロングステイニーズに目を向け始めています。

 

日本版CCRC構想とは

少子高齢化が進む日本では高齢者人口が急増し社会問題に発展していますが、一方でシルバー産業も急激に市場を拡大しています。そのひとつが国内での長期滞在型余暇、さらにはシルバー世代の地方移住でしょう。地方では過疎化が進み、所有者のいない空家が問題となっていますが、自治体が空き家対策として国内ロングステイ向けに転用する動きもあります。また、一歩進んで移住者向け住居として無料、あるいは安価に提供する自治体が増えています。

 

こうした動きを後押ししているのが日本版CCRC構想です。CCRCとは「コンティニューイング・ケア・リタイアメント・コミュニティ」のそれぞれの頭文字をとった略語で、「継続的なケアを受けられる退職者(高齢者)による共同体」を意味しており、アメリカ発祥の考え方です。

 

仕事をリタイアしたひとたちが元気なうちに地方へ移住し、高齢化したときにも継続的な医療と介護のケアを受けられるコミュニティを営むという意味です。このCCRCをもとに日本政府が構想したのが日本版CCRCです。

 

本家アメリカのCCRCは比較的財力のある退職者が対象であるのに対し、日本版CCRCではごく一般の年金受給者まで対象としています。また、日本版CCRCの最も大きな特徴は高齢者だけのコミュニティではなく、若者や子育て世代までを含めた多世代のコミュニティを目指している点です。

 

日本の人口は、全体が減少しているうえに首都圏一極集中に歯止めがかからず、地方の過疎化を加速させています。東京、大阪など首都圏では高齢人口が増えすぎて、医療や介護の人手不足を招いています。日本版CCRCでは高齢人口を地方に分散させることで、医療介護体制を平均化し、地方には介護職の雇用も創出できる、としています。

 

また、魅力的なふるさとづくり、多世代コミュニティを形成することで、若者世代の東京への流出を食い止め、過疎化を防ぐという狙いもあります。

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出典:HELPMAN JAPAN

 

日本版CCRCを推進するために三菱総研では3分野に渡る25の政策を提言していますが、なかでも健康保険の減額や介護報酬制度の見直し、減税などが重要であるとしています。大切なことは高齢者が下の世代に面倒を見てもらうのではなく、積極的に社会参加して価値を創造することを生きがいとすることだといえるでしょう。

 

それでは、日本版CCRCに対する各自治体の取り組みは、現在どうなっているのでしょうか。

 

2016年2月現在、日本版CCRC受け入れの意向を示している地方自治体は263を数え、そのうち具体的な戦略を策定、あるいは策定を予定している自治体は75団体あります。また、首都圏の医療・介護不足に警鐘を鳴らす日本創生会議では、医療・介護の受け入れ余力のある地域、つまり日本版CCRC居住地の候補として函館市、室蘭市、青森市、秋田市、山形市、上越市、福井市、岡山市、宇部市、徳島市、新居浜市、宮古島市など33地域を挙げています。

 

こうした中で、山口県宇部市では「宇部市多世代共働交流まちづくり構想」を策定しています。この構想の中では居住のタイミングをCCRCの「退職後」からさらに早め、「若いとき」からとしており、若者世代の人口流出をストップするという意志も盛り込まれています。

 

生活の様子は、現役引退後も仕事や社会活動、生涯学習に参加することに加え、医療や福祉の担い手として、あるいは起業家として現役を継続し、地域を支える一員として活躍することを想定しています。

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出典:宇部多世代共働交流まちづくり(宇部CCRC)構想イメージ図

 

宇部市が宇部CCRC構想の拠点候補としているのが宇部新都市「あすとぴあ」です。あすとぴあは、山口県、宇部市、都市再生機構が整備したニュータウンで、およそ150ヘクタールの用地はタウンセンター、テクノセンター、アカデミータウン、住宅エリア、公共施設など8つのエリアに分かれています。

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出典:宇部新都市

 

あすとぴあに移住する人物像は「エキスパートシニア」で、「趣味を中心に生活する富裕層」や「これまでの仕事体験を第2の人生に活かす人」に加えて週末だけの宇部生活を希望する人もターゲットに含めています。

 

ズ米は既存の空き家や民間集合住宅のほか、サービス付き高齢者住宅などが想定されていますが、公共交通機関のアクセスに課題が残ります。移住者の雇用はエキスパートシニアにふさわしくICT関連やエンジニア経験のあるリタイア世代の地元企業への就労支援を行うとしています。

 

宇部市には山口大学、宇部フロンティア大学、県産業技術センターなどの教育研究機関があり、生涯学習や講座の開設などにも前向きです。医療介護施設も充実しており、移住後のケアに不安を感じることは少ないでしょう。

 

宇部市では空家のあっせんもしており、格安で購入や賃貸することができます。

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出典:宇部市 | 住宅情報バンク取扱い物件(中央部・西)

 

熱海と並ぶ伊豆半島屈指の観光地・下田に隣接する南伊豆町では、CCRCの一環として杉並区と共同で「お試し移住プロジェクト」を開始しています。両自治体は、杉並区が1970年代から南伊豆町にぜんそく児童向けの全寮制学校を開設したり、林間学校用地を取得するなど交流を深めてきました。

 

杉並区の人口は55万人で、そのうち15万人が65歳以上となっています。そこで、杉並区ではリタイア間もないアクティブシニア向けに、1週間から数カ月のシーズンステイと、最長5年の期限付き移住を推進しています。移住期間中は杉並区の自宅を子育て世代向けの賃貸とすることで、家賃収入を得る方法も検討されているそうです。

 

一方の南伊豆町では、空家を町のデータベースに登録して、その中から一定要件を満たす物件にリフォームの助成を行ったり、町が借り上げて移住者用賃貸物件にするなどを検討しています。南伊豆町では釣りやダイビングなどのマリンレジャー、陶芸や農業体験などを通じて南伊豆町の地域における暮らしに溶け込んでもらいたい、としています。

 

杉並区との連携とは別に、南伊豆町では「南伊豆町生涯活躍の町計画」でCCRCによる移住を推進しており、特に健康創造型CCRCとして、健康づくりに重点を置いています。また、基本計画の中には「南伊豆町ヘルスアップステイ計画」が盛り込まれ、健康づくりをテーマにロングステイを推進しています。

 

ヘルスアップステイとは

ヘルスアップステイとは、健康に関心の高い首都圏のアクティブシニアを対象に、南伊豆町の自然環境に根差したアクティビティを通して、南伊豆町滞在中に健康改善効果を実感してもらおう、というものです。効果が出るまでにはそれ相応の滞在期間が必要ですので、短期滞在ではリピーターとなってもらえるように、心構えや知識の習得などの取り組みを推進します。

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出典:南伊豆町ヘルスアップステイ計画

 

ヘルスアップステイの目的は「健康と○○三昧(好きなことをして過ごす)」。これまで仕事や家庭中心に生きてきて、好きなことを自由にできなかったリタイア層に、やりたいこと、これまでできなかったことを南伊豆町で思う存分してもらいたい、という願いが込められています。

 

実際に「サーフィンやダイビング、シーカヤックなどのマリンスポーツをしてみたいが、高齢の初心者としては若者に混じって始めるのは気が引ける」、「釣りが趣味なのでシーズン、あるいは週末は南伊豆町で釣りをして過ごしたい」、「農業体験をして自分で食べる分のコメや野菜をつくってみたい」などの声があるそうです。

 

ヘルスアップステイでは、

・足腰が弱くならない

・認知症にならない

・がんにならない

の3つの「ならない」を目標として、南伊豆町での「住む、食べる、運動する、交流・体験する」の4つの環境を提供する、としており、そのために「移住交流総合窓口」を設け、ヘルスアップステイのコンシェルジュ機能を有し、プログラムの紹介、アドバイスなどを行うとしています。
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住む:安全面と快適性を両立させた住環境を整備し、滞在期間に応じた施設が選択できるようにする。

 

食べる:地産地消を前提に、新鮮な獲れたての地魚や地元産の野菜を中心に、おいしく栄養バランスのとれた食生活のアドバイスができる人材を確保し、体制を整える。

 

運動する:足腰が弱らないための運動教室やヘルスリテラシーを向上させるための講座など、健康的な生活習慣を実践できる環境を整える。

 

交流・体験する:やりたかったことやできなかったことに取り組めるよう、スポーツや趣味のサークル、講座などを開き、地域に貢献できるボランティア活動への参加など、やりがいを見いだせる活動、活躍の場を提供する。都会の喧騒を離れ、静かな場所で趣味や創作活動に没頭できる環境や、温泉でのリフレッシュ、値域住民との交流の場を創出する。

 

南伊豆町ではこうした、いわば国内でのロングステイに対して積極的に取り組んでいますが、ほかにも多くの自治体がこうした活動に取り組み始めています。東京オリンピック開催に向けた訪日観光客向けの環境整備とともに、今後の国内ロングステイ市場の広がりを予感させる動きといえるでしょう。

 

かつて「そうだ京都、行こう。」というキャンペーンが人気を博しましたが、これからは「そうだ○○、住もう。」となるかもしれませんね。各自治体の国内ロングステイ熱の高まりにも乞うご期待です。

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